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2011.01.21

NFL「神」の予想に関する一考察

 これ↓は、スポイラ(SportsIllustrated)誌の2010年9月6日号のNFLプレビュー特集に載った、同誌のピーター・キング記者のスーパーボウル予想。

Si_steelers

 で、現実のNFLプレーオフがどうなっているかというと、

<NFC決勝> Green Bay Packers at Chicago Bears

<AFC決勝> New York Jets at Pittsburgh Steelers

 NFCとAFCの決勝は1月23日に行われ、それぞれの勝者が2月6日にダラスで行われる第45回スーパーボウルに出場することになるが、恐ろしいことに、キング記者の予想通りの組み合わせになる可能性が25%の確率である。

 何が恐ろしいかというと、シーズンが始まる前に予想したスーパーボウルの組み合わせが当たる確率など限りなく0%に近いからだ。スコアが外れても、このままスティーラーズ対パッカーズの組み合わせになれば、キング記者はNFLファンから「神」と呼ばれても不思議でない。

 レギュラーシーズンの年間試合数が162試合のメジャーリーグ、82試合のNBAなどと比べて、NFLは16試合。プレーオフもどちらかが3勝または4勝しなくてはいけないメジャーやNBAと異なり、NFLはすべて一発勝負。今季も大本命ながら先週敗退したペイトリオッツのエースQBブレディが実は骨折したまま出場していたようだが、中心選手が怪我したり調子を落としただけで番狂わせが起きる可能性はぐんと高まる。

 だからと言ってフロックや運では決して勝ち抜けないところが戦略的知的団体格闘技であるアメリカンフットボールの面白さなのだが、NFLの場合はリーグ自体が所属チームの戦力・強さに差が開かないこと、同じチームが勝ち続けないことを重視している。これはパリティ(均衡)と呼ばれ、プロスポーツでは重要なマーケティング戦略になっている。

 どのチームにも勝つチャンスがあるほうがファン層は広がるし、シーズンの最後まで関心を引き付けられる。観客動員や放映権収入にプラスなのでアメフトに限らず重視されているが、NFLの場合はかなり徹底しており、そのせいで80年代のサンフランシスコ・49ナーズや90年代のダラス・カウボーイズのように「ダイナスティ(王朝)」と呼ばれる黄金時代を築くチームが現れる可能性はかなり低くなった。ということはつまり、優勝チームはおろかその候補チームを予想することすら高さ30センチのリンボーダンス並みに難しくなったということだ。

 ではなぜ、キングは予想できたのか。9月6日号の記事は合計3ページでそれほど長いものではないが、理由と根拠が簡潔にまとめられている。

 記事の冒頭にキング自らが書いているように、そもそも、スティーラーズを予想すること自体がトリッキーだ。エースQBのベン・ロスリスバーガーは婦女暴行騒ぎを起こして6試合の出場停止。たびたび不祥事を起こしてはいるが、08年シーズンのスーパーボウルMVPを獲ったWRサントニオ・ホームズをろくな見返りも求めずにトレードで放出。前シーズンは9勝7敗とパッとせず、ディフェンス偏重のイメージを覆すような補強もされていない。

 しかし、とキングは書く。前シーズンの戦績が当てにならないことは07年シーズンのジャイアンツ、08年のスティーラーズ、09年シーズンのセインツ、過去3年のスーパー優勝チームが証明している。おまけにコミッショナーの温情裁定でロスリスバーガーの出場停止はおそらく開幕から4試合に軽減され、最初の4試合の相手の弱さを考えればロスリスバーガー抜きでも3勝1敗でいけるとキングは説く。果たして、現実はすべてその通りになった。

 しかも面白いのは、キングがスティーラーズを推す決定的な根拠は、そうしたロジカルな分析の結果ではないことだ。

 8月にキングがサマーキャンプを訪れたときのこと。32歳のベテランラインバッカー、ジェームズ・ハリソンがパントカバーで、リターナーに入っていた新人のアントニオ・ブラウンをぶっ飛ばした。先発出場が約束され、ルーキー相手にいいところなど見せる必要のない大ベテランが一切手抜きをしない。現地取材の場で自分の目で見たその1つのプレーを何よりの根拠に挙げて、キングはスティーラーズの優勝を予想するのである。これぞスポーツライティング、これぞジャーナリズム。これでスーパーの組み合わせと勝敗まで当たったらカッコよすぎるではないか。

 スポイラのNFLプレビュー号と言えば、ドクター・Z(ジー)ことポール・ジマーマン記者がスーパーボウル予想を長らく担当していた。NFLが誕生して以降、おそらく最も有名なフットボール記者であるジマーマンは、ウィキペディアによれば、08年1月のスーパーに際して圧倒的な不利予想だったジャイアンツがパーフェクト・シーズン(シーズン全勝)目前のペイトリオッツを破ると予想して的中させてから数ヵ月後、心臓発作で倒れ、以来意識がない状態だという。

 ジマーマンの記事はシビれるくらい面白かったしキングもなかなかだが、そうしたスポーツライターを次々と輩出するSportsIllustratedやアメリカのスポーツジャーナリズムの奥深さにもあらためて唸らされる。

※今年のシーズン前にキングはスポイラのウェブ記事で「2010年にNFLで起きそうなこと10」という予想をしているが、こちらはかなりハズレまくっている。

10 things I think will happen in the 2010 NFL season

http://sportsillustrated.cnn.com/2010/writers/peter_king/09/07/mail/index.html

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