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2010.10.25

チリ鉱山作業員は「安全」を求めない

 チリ・コピアポ郊外の鉱山で起きた落盤事故の生還者が、事故に関する状況についてマスコミの取材などに語り始めた。彼らの証言が鉱山会社の刑事責任追及や作業員への補償に影響を及ぼすでしょうね――とコメントを振られたが、それほど単純な問題でない気がする。

 救出された作業員の1人は、岩盤を支える地層まで掘削させていたとして、サン・エステバン社の利益優先の体質を批判している。

利益優先の過剰掘削で落盤か チリ鉱山、作業員証言
http://www.47news.jp/CN/201010/CN2010102201000677.html

 落盤の3時間前に坑内で異常音を聞き、地上に出たいと言ったが鉱山会社に断られたと話す作業員も。

チリ落盤発生前「地上に出たい」 会社断る
http://www.asahi.com/international/update/1020/TKY201010200132.html

 安全基準を言うなら、こんな危なっかしい鉱山会社を放置してきたくせに、そんなことは忘れたかのごとく救出プロジェクトで英雄っぽく振舞っていた鉱業大臣や大統領の責任はどうなんだという気もするが、補償も刑事責任も会社をターゲットにするのがシンプルだし、事実、会社は責任を免れようがないだろう。問題は、鉱山で働く人々とその家族がそれを望むかどうかだ。

 この地域に住む人々の多くは鉱山で働く以外にない。少なくとも、鉱山ほど高い収入を得られる働き口は他にほとんどない。今回事故に遭った作業員の多くもそうだろう。

 一部の報道では、被害者家族が総額1200万ドルの損害賠償を求める予定でいるという。経営難だったサン・エステバン社の資産は1000万ドルを下回っているとされ、満額の支払義務を負えばそれだけで会社は自己破産するだろう。

 補償がそこまで多額にならなくても、今後は同様の事故を防ぐために万全の安全対策を講じることになれば、そちらにコストを配分するぶん、作業員の給料は下げられるだろう。あるいは、今後は「事故が起きても会社に対する補償の責任は放棄する」という契約書に事前にサインした作業員しか雇わなくなるかもしれない。

 もう二度と鉱山の仕事はしないという生還作業員は別にして、それ以外の生還者や、今回の事故とは無関係の鉱山労働者が、そのように鉱山会社が追い込まれて破綻したり、結果的に待遇が悪くなるような事態を望むだろうか。

「命には代えられない」が、鉱山で働くということはそもそもそういう理屈では成り立っていないはずだ。悪質な鉱山会社を排除することはコンセンサスになっても、それを超えて業界全体に規制が効き過ぎることは、リスクと引き換えに大金を稼ぐことを選んだ作業員とその家族の利益とマッチしない。

 奇跡の生還とか人間の強さとか、不必要なまでに美談に仕立てたり大げさなものを見出そうとするのは、地下奥深くにもぐる仕事のリアルな現実を見失っている。損害賠償請求や再発防止の動きがうやむやになっても、私は驚かない。

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